ICL のホールは視力に影響する︖
【レンズの中心にあるホールについて徹底解説】
ICL に設置されているホールとは︖
ICL は、「Implantable Contact Lens」の略で眼内の挿入するコンタクトレンズという意味になります。少し前までは、近視や乱視を治療することが目的でしたが、遠視や老眼にも対応できる新しいレンズが登場していますので、手術の適応や年齢が幅広くなっています。最近のICL には、レンズの中心に穴が開けられているホールタイプが主流となっていますが、以前のレンズには穴がありませんでした。レンズの中心に穴が開けられたホールは、眼内を流れる房水の循環経路を確保して手術後の眼圧上昇を予防する役割を果たしています。
ホールによって手術前の処置が不要に︕
最近では、レンズの中心に穴が開けられているホールタイプの ICL が主流となっていますが、以前のレンズにはホールがありませんでした。このため、手術後の眼圧上昇を予防するために、レーザーで虹彩に穴を開ける「虹彩切開術」が必要でした。この虹彩切開術を行わないと、手術後に眼圧が上昇して視神経を傷つけてしまう緑内障に発展するリスクがありました。また、虹彩切開術を行っても時間が経つと穴が塞がってしまうこともあったため、その場合は改めて虹彩切開術を行う必要がありました。手術に向けた詳しい検査とは別に虹彩切開術を受けなければならないこと、穴が塞がってしまうと再処置が必要になることは患者様にとって負担でもありましたが、ホールタイプの登場によって患者様の負担軽減にも役立っています。
レンズの中央にあるホール(穴)は見えないの︖
ICL のレンズ中央にあけられたホールは、0.36mm と非常に小さいため視力には影響しないと言われています。中には、ホールが見えるという人もいますが、全く見えないという人が多く見えるという方でも時間の経過とともに気にならなくなってきます。このホールが影響するもう一つの症状としてハロー・グレアがあります。ホールによる屈折現象で光を見た時に輪のようなものが見えることがあります。ホールの縁に光が反射することで起こる症状になりますが、レンズの種類によっても違いがあります。ハロー・グレアという症状は手術をしていなくても見える症状になりますので、手術後も症状を感じる方もいれば、全く感じない方もいます。
症状は、時間の経過とともに徐々に軽くなり、1 ヶ月~ 3 ヶ月程度で気にならなくなります。
ホールは視力に影響しないのか︖
レンズ中央にホール(穴)が設置されたホールタイプの ICL は、レンズの真ん中に穴が開いているため、実際に視力への影響を心配する声も少なくなかったと思います。私は、ICL のホール無しとホール有りのレンズを比較して視機能に変わりがない事を証明した初めての論文を世界に発表しました。この論文は、2014 年に発行された世界的な眼科英文専門誌である「American Journal of Ophthalmology 」にも掲載されています。ホールタイプの ICL は、日本で開発されて 2014 年に認可されましたが、私のチームが行った研究によって認可直後に視力に影響がないことが証明されています。
2014 年 5 月の「American Journal of Ophthalmology」に
掲載された冨田院長の論文
簡単に和訳
<研究目的>
レンズの中央に人口穴がない ICL とレンズの中央に人口穴を有する ICL と間の結果を比較する。
<研究設計>
異なる機能を持つ ICL の比較研究
<メソッド>
我々の研究は、 屈折異常を有する 65 人の患者に対して行った。
平均顕在屈折球面等価 (MRSE) は−9.32±4.02 ジオプター ( 範囲、 6.75〜−16.50 ジオプター ) であった。 患者をICL の種類によって、 中央の人工的な穴のないレンズで手術を受けた患者 ( グループ I、 21 眼 ) と穴のあるレンズで手術を受けた患者 ( グループ II、 44 眼 ) の 2 群に分け、 術後の視力の変化、 内皮細胞密度、 MRSE、 高次収差測定値、および 2 種類の ICL 間の客観的散乱指数を比較した。 なお、フォローアップ期間は 3 ヶ月であった。
<研究成果>
区分けした 2 つの群間で、 未矯正距離視力 (P = 0.81)、 補正距離視力 (P = 0.24)、 MRSE(P = 0.18)、 および内皮細胞密度 (P = 0.76) の術後変化に統計的な有意な差は認められなかった。 また、 3 ヶ月後の経過においても客観的な散乱指数に差は認められなかった (P=0.32)。 高次収差測定値のいずれも、 群間に有意差を示さなかった。
<結論>
これらの ICL の結果の間には、 中央の人工孔の有無にかかわらず、 有意差は認められない。
ホールの形状によってハロー・グレアを軽減
ICLには、3 種類のレンズが登場していますが、どのレンズもホールタイプのレンズが主流となっています。ただし、新しく登場したプレミアム眼内コンタクトレンズは、ホールの形状が円錐状になっており、光の反射を軽減する工夫がなされています。横や斜めから入ってくる光がホールの縁に反射しづらい形状にすることで、ハロー・グレアといった症状を起こりにくくしています。直径が 1mm にも満たない非常に小さなホールにも繊細な技術で合併症を抑制する機能が追加されていますので、レンズを選ぶ際にも重要なポイントになると思います。
従来の ICL(ホールタイプ)
従来のホールタイプのレンズは、入ってきた光がホールの縁に当たりやすく、屈折現象によって光の輪のようなものが見えることがあります。プレミアム眼内コンタクトレンズ
プレミアム眼内コンタクトレンズに設置されたホールは、円錐状の形状に設計されているため入ってきた光がホールの縁に当たりくい構造になっています。合併症の抑制を考えた ICL
ICLには、3 種類のレンズが登場していますが、新しく登場したプレミアム眼内コンタクトレンズには、センターホール以外にも6つのホールが設置されており、合計で7つのホールがあるレンズ設計になっています。全てのホールが手術後の合併症を抑制するために設けられていますので、視力の改善だけではなく合併症についても考慮されて登場したレンズになります。
7 つのホールが設置されたプレミアム眼内コンタクトレンズ
セントラルスマートホール
レンズの中心に設置されたセントラルスマートホールは、目の中を流れる房水の循環経路を確保する役割があり、眼圧上昇のリスクを抑える効果があります。このホールが設置されたことで、これまで負担となっていたレーザーによる虹彩切開術が不要になります。
ハプティクスホール
目の中でレンズを安定させるハプティクス(支持部)に、左右 2 つずつ設置されたホールがハプティクスホールです。このハプティクスホールは、緑内障の発症を予防する役割を担っています。
マージンホール
マージンホールは、レンズの光学部上部に設置された 2 つのホールで、白内障の発症を予防する役割を担っています。プレミアム眼内コンタクトレンズは、水晶体とレンズの距離を保つためにプレミアムカーブというデザインを採用していますが、マージンホールとともに白内障の発症を抑制する効果が期待できます。
まとめ
今回のコラムでは、ICL のレンズに設置されたホールについて解説してきましたが、小さいレンズの中にも多くの機能が追加されていることがお解りいただけたと思います。特に、新たに登場したプレミアム眼内コンタクトレンズは、視力の向上だけではなく手術後の合併症予防についても考えられたレンズデザインを採用していますので、手術を検討されている方は参考にしていただければと思います。